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自由貿易の根拠

スティグリッツ 入門経済学

東洋経済新報社

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マクロ経済を解り易く書く為の参考にと、手にしたスティグリッツ教授の「入門経済学」(入門・ミクロ・マクロ・の三部構成)ですが、読み進む内に私本来の「天邪鬼」が蠢き出して「古典派理論」にイチャモンを付けたくなりました。私は余り手を突っ込みたくないミクロ経済の分野なのですが、黙って居られない気分になってしまって・・・。教授をして肯定している理論に異を唱えるのですから、「鈍器ホーテ」と成り果てるかもしれませんが、取り敢えず自由貿易の根拠とされる

「リカード・比較優位説」を取り上げます。


本書の中で教授は以下のような事例を引いて説明している。


                 アメリカ      日本         


PC一台の生産費       100      120        

小麦1トンの生産費        5        8        

このような条件にある時、


「日本での小麦1t当たりの生産費と比較した、PC1台当たりの相対生産費は、アメリカでのPC1台当たりの相対生産費よりも低くなっている。即ち日本では、一台のPCを生産する為には、1tの小麦を生産する労働の15倍(120時間÷8時間)の労働を必要とする。一方アメリカでは同様に20倍(100時間÷5時間)労働を必要とする。即ち日本はPCの生産において、絶対劣位では有るが、比較優位を持っているのである」


従って日本はPC生産に特化し、アメリカは小麦生産に特化すれば合計生産量は増加する、増加分を輸出し合えば双方とも供給を増やせる、と言う物です。


この例は現実の事象を極端に捨象してあり、簡単に見ても幾つかの問題点が有ります、その一つは、現在の生産量が需要量に見合っているのか、不足しているのか、余っているのか、と言うことです。

両国に於いて生産物が現状でも余っているなら、特化する事で生産性が高まれば失業が発生してしまいます。一般に生産性の向上分は労働人員の削減により企業収益の向上として処理されるのです。其のまま労働時間の短縮として或るいは労賃の増額として労働者に分配されはしません。リカ-ドゥがこの理論を立てた1800年頃は、殆ど総ての生産物が潜在需要を下回り顕在需要さえも下回っていたのです。ですから増産可能なあらゆる方法を取るのは、そのまま社会の普遍的利益に直結したでしょう。しかし、現在ではこの論理を其のまま当て嵌めるには、余りにも機械化や技術力による収穫逓増の機能が強く働きすぎるように成っており、腐ったり陳腐化したりする事の無い『貨幣』の、不動蓄積に資するのみとなる恐れが強いのです。「比較優位説」は古典派の中の古典とも言うべき「セイの法則」が根拠と成っていますから(生産されたものは総て需要される)、当然消費サイドへの考察は排除されてしまうのでこんなトンでも理論に成るのです。


更に、比較優位産業に特化する事で、比較劣位産業を永久に失う事に成ります。この意味は、日本を始めアジア地域に置ける驚異的発展を遂げた各国が、幼稚産業を貿易障壁により保護する事で、世界レベルに迄キャッチアップさせた成功例を真っ向から否定する事になります。詰まり、先進国による絶対優位の固定化に資する訳です。其れが後進国をして、先進国の言いなりでは搾取されるだけで経済力の向上に繋がらないとの不満を募らせている原因の一つなのです。また、比較劣位だからとして食料生産を失って主権国家を維持できるでしょうか、安全保障上必要な工業を失って、全量を輸入に頼る独立国など想像すら出来ません。


二つ目は、この例では(リカードも同じですが)物物交換に成っていることです。実際には「貨幣」に拠って清算されますから、通貨レートが問題に成って来ます。特に途上国に置いては経済規模が小さい為、大国から見れば僅かな資金移動でも通貨レートに大きな変動を齎します(直近ではアジア通貨危機)。その為、貿易が必ず利益を生むとは言いきれない部分が有るのです。為替差益(差損)が発生する事をご存知であれば容易に想像がつくと思います。途上国側から都合の良いレートを維持する事は殆ど不可能なのに、先進大国側からは其の気に成れば可能なのです。


当事国の国内政治に依拠する問題点を除いても、解消不能なこれらの不経済を内包するのが貿易なのです。現実には先進国が拠り多くの利益を受ける事は、恒常的貿易黒字を持つ日本が、貿易立国であるとされる事実からも理解される所だと思います。しかし、中長期的には為替レートで産業力格差は中和されますので、企業の国際間移動が自由な現在では、通貨高=雇用流出と言う結果に繋がります。

ではリカードの理論は「全く出鱈目」かと言えば、そうでは有りません。挙げたような問題を解消できる特殊な状況では、有効なことも有ると思われます。

結果は出ていませんが、EUで現在進行している実験を注目したい所です。

また、当事国で生産不能な財や、不足している財などは貿易に拠って供給される事で輸入国の国民福祉に貢献するでしょう。

結論として貿易は適宜、政府による関与を必要とする、最低自由化の範囲は政府の決定権を保証する必要が有るのです。


ここ数回のWTOの会議が反対派によって、異常な状況下で強行される事になったのは、この様な欺瞞に気付いた庶民の抵抗なのです。


                              by狂愚男


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